2013年05月18日

SS「飛鷹さんと過ごすいとものどかなる昼下がり」

 たもんくんには政治がわからぬ。たもんくんは鎮守府の提督である。出撃ラッパを吹き、艦娘と遊んで暮して来た。けれども資源枯渇に関しては、人一倍に敏感であった。
 とはいえ、たもんくんは別にそこで激怒するようなことも特になく、今日も出撃や様々な雑事の合間に、昼食を終えて執務室でお茶を飲んでのどかに息を吐いていた。
「提督ー」
 提督ともなると前線で戦ってばかりもいられない。自らが率いる艦隊のための艦の建造や装備品の開発の総責任者でもあるし、資材の調達・補充・管理はもちろん提督が管理をせねばならない。それに提督といえどつまるところ宮仕えの身であるから、そちらの苦労も耐えない。
「ねー」
 つまるところ、たとい政治が分かったとしても首を突っ込む暇などないのだ。無論仮に暇があったとしても、それは軍人の領分ではない、というくらいの分別はたもんくんは持っている。
「ねーってばぁ」
「あーもう、うるさいなあ、人がお茶飲んでるときに何さ?」
「暇なんでしょ、艦載機の整備を手伝って、何気に数が多くって」
 と、そんな彼に先ほどから声を掛けてくるのは軽空母の飛鷹だ。今日は彼女が秘書を勤めている。
 いつもならば、たもんくんお気に入りの軽巡龍田か駆逐艦五月雨、あるいはよく寝ることではたもんくんと同じ重巡加古が秘書を務めているのだが、龍田と五月雨はお使いに出ており、加古はドックで寝ているため、飛鷹が秘書を務めているのだ。
「えー、んなの補給廠の連中にやってもらえよ、何のためにあっちに一杯技師入れてると思ってるんだよ」
「仕方ないじゃない、零戦52型に彗星に、手間の掛かる新鋭機ばかりたくさん積んでるからあっちじゃ時間が掛かってしょうがないのよ。ただでさえ今は扶桑先輩が補給中なのに」
 と話す飛鷹は一応たもんくんの部下なのだが、敬語を使うわけでもなく普通にタメ口なのは、彼女が元は民間出身だから、というのも理由の一つである。もっともたもんくんの側でも、彼女に限らず特に「上司として」接している風ではないのだが、それでいて皆きちんと付き従っているのだから世の中は分からない。
「てか、別に暇じゃないんだけどなぁ、お茶飲んだら書類仕事やんなきゃいけないし」
 と、机の上にどんと詰まれた書類を眺めつつ、飛鷹のほうを横目でで睨むも
「どうせ提督、見もせず適当に承認印押すだけなんでしょ、だったらその量ならすぐ終わるでしょ」
「いや、信頼してるからであって、別に適当に押してるわけじゃないんだけど……」
「結果は同じでしょ? 私だけじゃ手が回らないんだから、こっち先に手伝って」
「えー、めんどくせぇなぁ……」
 などとは言うものの観念したのか、たもんくんは湯飲みを置いて、執務机から立ち上がった。もちろん飛鷹のほうは手伝ってくれる事を予想して、工具セットをきちんと2つ持ってきているのだった。

 艦載機の整備と言ってもやることは色々とあるが、たもんくんがまずはじめたのは主翼と尾翼の修理だった。
 艦載機を治具に載せて、翼の反りが狂っていれば木槌で叩いて修正する。欠けやひび、穴があればパッチを当てる。
「飛鷹、そっちにリベットある?」
「あるわよ、はい」
 飛鷹の方は発動機やその他装備品の修理・換装。発動機を外し、出力をチェックして、規定値以下になっていれば予備品と交換する。操舵系や電装系の機器も一通り機能チェックをして、不良箇所があれば取り外して交換。
「はい、これ終わったから翼の整備お願いね」
「あいよ」
 窓の外からは、潮と雷に初霜と、待機中の駆逐艦たちが遊んでいる声が聞こえてくる。出身地が同じ者同士、彼女たちは仲が良いのだ。
 修理をしているたもんくんと飛鷹の周りにも、自分の機の修理を待っているちび娘たちがきゃっきゃと走り回っている。外でも中でも娘たちがにぎやかに遊びまわって、その中でこうしてこつこつ作業をしていると、提督というより大家族のお母さんになった気分だなぁ……、などと、たもんくんはのどかに思うのであった。
「ちょっと、手が止まってるわよ」
「おお、悪い悪い、ぼーっとしてた」
「もう……」
 確かに、隣にいるのがこの飛鷹では、お父さんというよりお母さんという感じになってしまう。もっとも、世間の肝っ玉母さんなどと呼ばれる人は、大体このような感じなのかもしれない。

 艦戦22.艦攻18、艦爆18の合計58機を整備し終えると、さすがに高かった陽も傾く時間となっていた。
 飛鷹の入れたコーヒーを飲みながらたもんくんは、後回しにしていた書類の決裁へと取り掛かっていた。
「ねえ、提督」
「ん、何?」
 すぱん、すぱん、すぱん、と小気味いい音を立てさせながら、ふと話しかけてきた飛鷹にたもんくんはこたえた。
「私……、きちんと働けてますよね?」
「何さ、柄にもない、飛鷹はきちんと働いてるよ、うちの稼ぎ頭だ」
 純粋な火力で言えば扶桑などには確かに劣るものの、飛鷹率いる艦載機部隊は優秀で、なおかつ補給物資も入渠費用も戦艦に比べて食わないから、総合的な戦力としては彼女が一番なのだ。
「そう、なら、いいわ……、さ、提督?」
「何?」
「そろそろ出撃するわよ、加古ちゃんも起きてくる頃だし!」
「え、いやちょっと書類がまだ少し」
「そんなの後! 物資もあるんだから行くわよ!」
 ったくしょうがないなぁ、とぼやきながら、でも彼女はこのくらい勢いがあるほうがふさわしい、と、窓の外の駆逐艦たちに声をかける飛鷹を見ながら、たもんくんは思うのだった。

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仕事中にふっと創作の神様が降りてきて「こういうの書けし」と仰ったので書いてみました。しかし神様、なぜお相手が龍田の姉さんでも五月雨ちゃんでもなく飛鷹さんなんでしょうか…。
艦娘のサイズも2chのスレでは色々話題になってましたが(ちなみに私は「艦は艦娘のスタンドだよ」派)、艦載機のサイズも謎な所。なので適当にでっち上げてみました。
SSでも書いたとおり、我が艦隊の飛鷹さんは零戦52型に21型、彗星とレア艦載機を山積しているおかげで結構な戦力になっております。開幕で敵6隻中2隻撃沈させるとかおいぃ、という。

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